アヤコがトモヤと出会ったのは、息子ケンの幼稚園でのことだった。
入園してすぐの保護者懇談会。アヤコは他の母親たちと談笑していたが、ふとした拍子に目が合ったのがトモヤだった。タカシ君の父親である彼は、他の父親たちとは違い、どこか余裕のある色気を漂わせていた。
「はじめまして。タカシの父です」
爽やかな笑顔を向けられた瞬間、アヤコの胸が高鳴った。だが、それは単なる挨拶で終わり、日々は流れていった。
しかし、ある日、アヤコはスーパーで偶然トモヤと再会する。
「アヤコさん、でしたよね?奇遇ですね」
彼は人懐っこい笑顔で話しかけてきた。買い物かごには簡単な惣菜が並び、独り身の生活を感じさせる。
「奥さんは……?」
「タカシが生まれてすぐに離婚しました」
予想外の答えに、アヤコは思わず息を呑んだ。ひとりで子供を育てる男の色気。無意識に感じてしまう魅力に、胸の奥がざわつく。
「そちらは?」
「ええ、私は……まあ、普通に」
言葉を濁した。結婚生活に不満がないわけではないが、それを見ず知らずの男性に話すのはためらわれた。
「……良かったら、お茶でもしませんか?」
突然の誘いに驚いたが、なぜか断る気にはなれなかった。
その日から、アヤコとトモヤは時折、二人きりで会うようになった。
子供の送り迎えの合間や、夫が出張の日を狙ってカフェで過ごす時間。最初は世間話ばかりだったが、次第にお互いの家庭のこと、秘めた想いを語るようになった。
「……実は、まだ母乳が出るんです」
ある日、ぽつりと漏らした言葉に、トモヤの瞳が揺れた。
「本当に……?」
「ええ、もうケンは飲まなくなったけれど……時々、張ってしまって」
それは、誰にも言えない秘密だった。だが、彼には言えた。トモヤの目が、いつもより艶を帯びたものに変わる。
「……見せてもらってもいいですか?」
一瞬、息が詰まった。恥ずかしさと興奮が入り混じり、アヤコは震える手でブラウスのボタンを外した。
「きれいだ……」
形のいい膨らんだ胸から、乳白色の液体が滲むのを見て、トモヤの喉が鳴る。
「こんなの……ずるいですよ」
彼の手が伸び、そっと乳房を包む。その瞬間、アヤコの身体が震えた。
「ダメ……」
かすれる声とは裏腹に、心は止めてほしくないと叫んでいた。
そして、二人は一線を越えた。
トモヤの唇が、滲む母乳を舐める。熱を帯びた舌が、アヤコの秘められた感覚を呼び覚ます。彼の手が、胸の先端を摘み、優しく転がすたびに甘い声が漏れた。
「まだ……出る……」
母乳が溢れ、二人の肌を濡らす。その背徳的な行為が、アヤコの理性を吹き飛ばした。
やがて、彼の熱いものがアヤコの奥へと沈み込む。肌と肌が密着し、二人の境界がなくなるような錯覚に陥る。
「アヤコさん……可愛い……」
その言葉に、堕ちた。
夫では味わえなかった快楽。心まで支配されるような深い愛撫。全てが新しく、罪深いほど甘美だった。
だが、その関係は長くは続かなかった。
夫に気づかれたのだ。アヤコの変化を、不自然な時間の使い方を、そして――何よりも彼女の心の揺れを。
「お前、何をしているんだ?」
問い詰められたとき、すべてが終わった。
家庭は崩壊し、ケンの幼稚園での居場所も失われた。トモヤもまた、タカシとともに幼稚園を去った。
アヤコは、すべてを失った。
だが、それでも――
「……後悔、してない……」
ひとり、夜の静寂の中で、まだ乳房に残るトモヤの感触を思い出しながら、そう呟いた。
罪は消えない。
だが、その甘い罪の味は、もう二度と手に入らないのだ。
コメント